伊豆箱根湘南風土記(17)鎌倉 鏑木清方記念美術館

 

鎌倉小町通りを少し脇に入ったところに近代日本画の巨匠鏑木清方画伯の記念美術館がある。小町通りを僅かに外れるだけで街には静寂が漂っている。美術館があるのは鏑木清方画伯の終焉の地。この美術館の土地建物、作品、資料はご遺族の寄付によるものとのことである。

画伯は明治11年、神田佐久間町に生まれる。父はジャーナリストであるとともに人情本作家。画伯は13歳から水野年方に浮世絵を学ぶととともに、17歳からは父親が経営する「やまと新聞」に挿絵を描き始めた。文学、歌舞伎、オペラなどにも幅広く関心を広げ、泉鏡花や樋口一葉などの文学や庶民生活を題材に数多くの作品を残した。また、画伯は、作品の一つ一つにその作品を描いたときの心情を書き記していて、素晴らしい著作が残されている。自然や庶民の生活に対する繊細な感覚や洞察の細やかさが絵画のみならず清方の『ことば』にも現れている。美術館には、画伯自身の生涯を詳細に記した『こしかたの記』という書籍が置かれていて、大変興味を感じたので、手にはいるようであれば読んでみようと思う。

今回の展示作品では、テーマにある『早春』やアズールなどの顔料で美しく繊細に描かれた『しらうお』など、たくさんの傑作が展示されていた。