伊豆箱根湘南風土記(13)伊豆 願成就院

 

今年は大河ドラマの「鎌倉殿の13人」が人気である。北条時政が源頼朝の奥州征討戦勝を祈念して建立したとされる願成就院を訪ねた。

願成就院に向かう前に昼食を「多賀」という老舗の蕎麦屋さんで蕎麦を美味しくいただいた。築後200年という瓦屋根が美しい店構えで、蕎麦屋としては40年の老舗とのこと。昼時で手入れの行き届いた庭先は順番を待つ客で溢れていた。千両、万両の赤い実が彩りを添え、見上げると胡桃もまだ小さいが実を膨らませていた。蕎麦寿司や帆立の天ぷらなどの珍味を味わった後、海老天蕎麦をいただいた。いずれも美味であった。品出しの手際の良さにも心地よさを感じた。

多賀から頼朝道と呼ばれる山道を抜けて伊豆の国へ。幾百年と変わらぬ景色であると感じさせる杉林、松林、薄が原を過ぎて韮山にある願成就院に着く。瓦屋根を被った木造の門を入ると左手奥に北条時政の墓がある。墓のすぐ脇には「時政のふるさとにのこす露の墓」と詠んだ秋櫻子の句碑がある。入口正面には御堂があり、運慶作の阿弥陀如来坐像など国宝五体が置かれている。当時の北条家の人々と運慶との交わりを窺い知ることができる。御堂左手には住職が居住する現本堂がある。1789年(寛政元年)建立とされるが、伊豆守山の山里の風景に溶け込んだ風情のある萱葺の建物である。洗心庭と名付けられた石庭がある。御堂脇には現代風のユーモア溢れる五百羅漢の石の彫り物が所狭しと並んでいる。願成就院は時政、義時、泰時によって築かれ、当時の伽藍は15世紀末の北条早雲による堀越御所(時政館)攻めの際焼失したものの、以降も北条家末裔の人々によって守られてきたようである。入口付近、柿の木の下には、北条家ゆかりの人々の墓が立ち並んでいるが、柿の実がたわわに実り、風情を醸し出していた。

御堂裏手には、昇り口近くに、八幡宮神楽殿があり、更に百段近い石段を昇ると、八幡宮本堂がある。頼朝が戦勝を祈願したとされる。