池波正太郎 『真田太平記』

池波正太郎の『真田太平記』新潮文庫全12巻をようやく読了した。最も魅了された本の一つに数えられる傑作である。

昌幸、長男信之、次男幸村は、真田家が生き残るために豊臣方と徳川方に分かれたものと理解されがちであるが、この書を読んで、それぞれが各々にとっての義に生きたのだとわかる。人それぞれに定めがあるような人生の中で、それぞれが義を貫く生き方の美学を強く感じた。昌幸は、上杉景勝から受けた恩義を忘れずに徳川に抗する立場を貫いた。また、幸村は、大谷刑部の娘を嫁にしたこともあり、父昌幸と運命を共にし、父亡き後も、半ば負け戦になるとわかっていながらも豊臣方につき奮戦し、大坂夏の陣で最期を遂げた。信之は、本多平八郎忠勝の娘を嫁にして、徳川に忠誠を尽くした。さらに、滝川三九郎のような、与えられえた運命をすべて受け入れていく飄々とした生き方も大いに美しい。真田家を助ける草の者の世界も見事に描かれている。人生は誰もが死に向かって生きていくことになるが、その中で、守るべき価値を何に求めるのか、どこに見出すのかが問われる。

今月は『真田太平記』の世界にどっぷりと浸かるひと月となった。信州、関ヶ原、滋賀、京都、大坂あたりの旧跡をゆっくり辿ってみたい気分である。