イタリア、シエナを訪ねて
フィレンツェから葡萄畑の続く丘陵を抜けるとシエナに着く。
町の中心には半円形のカンポ広場。広場傍にはレンガ造りの鐘楼マンジャの塔が聳え、階段を昇ると塔の上からは赤瓦の美しいシエナの街並みや郊外に広がる緑の絨毯のような丘陵が一望できる。すぐ隣のプッブリコ宮にはシモーネマルティーニの「荘厳の聖母」やロレンツェティの「善政・悪政の効果」などシエナ派のコレクションがあり興味深い。
カンポ広場を過ぎチッタ通りを抜けペッレグリー二通りへ行くと、白と濃緑色とピンクの大理石の縞模様が美しいドゥオーモが見えてくる。正面入り口のファサードには数々の聖人像の彫刻、大きなバラ窓と3つのロマネスク様式の扉、教会内部も主祭壇に向かって白黒のストライプの柱やアーチ構造で支えられた天蓋など荘厳な空間が広がる。床には古代の物語を刻む赤みがかった大理石の象嵌も見事。しかし一番の圧巻はピッコローミニ家図書館の壁、天井一面に緻密に描かれた数々のフレスコ画である。これだけ美しく金色の装飾模様やフレスコ絵画がちりばめられた宝箱のような小部屋は世界中に類がないと感じる。また、同図書館には大きな讃美歌の楽譜集が所蔵されており、聖歌が聴こえてくる思いがした。
シエナの街の見どころとしては、他にドメニコ教会、聖カタリナの生家などがある。カテリーナは、シエナの裕福な染物屋ベニンカーサ家の子として生まれ、6歳の時、イエスキリストの幻視を受けた。主イエスが栄光のうちに教皇の祭服をまとい現れ、カテリーナに向かって十字架の祝福を授けたというカテリーナは自分の純潔をキリストへ捧げることを決め、7歳のとき聖母マリアに「私の唯一の主であるあなたの御子イエス・キリストを私にお与え下さい。私は決してほかの夫を迎えず、いつも純潔で汚れのない身を保つことを、この『御方』とあなたに誓います」と宣言した。12歳の頃、カテリーナは幻視のなかでキリストから彼女にしか見えない四つの宝石で出来た金の指輪を与えられ、「あなたの創造主であり救い主であるわたしは、あなたを『信仰』において娶る。あなたはこれを、わたしたちが天において永遠の婚礼を挙行するまで、純潔に守るがよい。娘よ、今は勇気をもって行動し、私の摂理があなたに委託する事業を恐れなく成しとげるがよい。あなたは『信仰』によって武装している。すべての敵に対して勝利を納めるであろう。」というキリストの声を聴いた。しきりに結婚を勧める母親の前で、カテリーナは長い茶髪を短く切り落とし、自分の決意の固さを表した。聖カタリナの生家にはこのカテリナの生涯の各場面を伝える絵画が飾られている。
街中にグロッタ聖カテリナというレストランがあり、ポルチーニ茸入りのパスタやリゾットなどが美味。